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東京高等裁判所 昭和37年(ネ)898号 判決 1964年3月30日

控訴人 陳明峯

被控訴人 永長左京

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決主文第二、三項を取り消す。被控訴人は、控訴人に対し東京都墨田区東両国二丁目十一番地の四の宅地百三十坪六合四勺について東京法務局墨田出張所昭和二十八年十月二十八日受付第二一、六〇二号をもつて被控訴人のためになされている同年十月二十四日付手形割引根抵当権設定契約による債権限度額金五百万円、契約期間四カ月十日、利息年一割二分、同支払時期手形割引の一部前払、特約債務不履行のときは日歩二十銭の損害金を支払うことという根抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文第一項と同趣旨の判決を求めた。

当事者双方の主張及び立証は

控訴代理人において

一、本件根抵当権の被担保債権の不存在

訴外両国企業株式会社(以下訴外会社という)については共同代表の定めがあつて、その代表取締役は田島一郎、近藤信子、須藤孝子の三名である。しかるに、被控訴人が訴外会社に対して有する根抵当権の被担保債権として主張する基本の約束手形(乙第十二ないし第十四号証の各一、二)には、受取人、裏書人として単に訴外会社の代表取締役田島一郎と表示されているに過ぎないから、右手形に基く一切の債務は訴外会社の債務ではない。

二、被控訴人主張の債権についての時効の完成

仮に訴外会社が被控訴人に対して債務を負担していたとしても、それは手形上の債務であり、そうでなければ、訴外会社がその目的とする映画館建設のために金借した商事債務であつて、この債務については次のとおり時効が完成している。時効の始期は被控訴人主張の代物弁済の意思表示が訴外会社に到達した日の翌日の昭和二十九年八月二十五日(控訴代理人提出の昭和三十七年七月十八日付準備書面に本文の意思表示の到達した日が昭和二十九年八月二十三日とあるのは誤記と認められる)であつて、手形上の債務とすればその後三年、商事債務とすれば同五年の各経過により時効が完成したのである。

三、第三取得者としての時効の援用

控訴人は本件根抵当権の目的物件の第三取得者として訴外会社の債務を弁済する正当の利益を有する者である。従つて、若し控訴人が各弁済をしたときは訴外会社に対しその償還を求めうべき筋合であるが、右債務の時効が完成している以上、訴外会社は控訴人の償還請求に対し、控訴人の弁済した債務について時効を援用し、その請求を拒絶することが明らかである。かくて、第三取得者に時効の援用権を否定すると、第三取得者は極めて重大な不利益を被るべきをもつて第三取得者については民法第四百三十九条を準用して時効の援用権を認めるのが相当である。

四、債権者代位権による時効の援用

控訴人は原審において昭和三十三年六月十九日訴外会社と裁判上の和解をし、控訴人は訴外会社に対し同年十二月末日までに本件根抵当権の設定登記を抹消せしめるべき債権を有するに至つたので、第三取得者としての時効の援用が認められない場合には、右債権を保全するため債務者である訴外会社に代位して前記時効を援用する。

五、被控訴人の後記主張に対する答弁

1  控訴人の債権者代位権による時効の援用が時機に後れたものであることは争う。仮に時機に後れたものとしても、訴訟の完結を遅延せしめるものではないから、控訴人のこの時効の抗弁を却下することは許されない。

2  被控訴人がその主張のような代物弁済による所有権移転請求の訴(以下別訴という)を起し、これがその主張のような経過によつて終了したこと及び被控訴人がその主張のような競売申立をしたことは認めるが、右別訴は手形又は貸金債権請求の訴とは本質的に異なるものであるから、被控訴人主張のような時効中断の効力を有するものではなく、従つて、被控訴人の競売申立前既に時効は完成している。

3  訴外会社が債務の承認をしたことは否認する。別訴における訴外会社の答弁の趣旨は代物弁済契約の不成立を主張したものであつて債務の承認をしたものと解すべき余地はない。

4  なお、前記一記載の手形が被控訴人主張のような書換手形であることは認める。

と述べ、乙第二十一ないし第二十四号証の成立を認め

被控訴代理人において

一、控訴人主張の約束手形について

右手形の受取人、裏書人の表示が何れも訴外会社代表取締役田島一郎となつていることは認めるが、右手形は何れも被控訴人が昭和二十八年九月二十九日訴外会社に対し五百万円を貸し付けた際に同会社が振り出した約束手形の書換手形である。

二、控訴人の時効の援用について

1  第三取得者としての援用について

時効の援用権は債務者の道義的感情に委ねるべき一身専属権と解すべきであるから、第三取得者の時効の援用は許されない。

2  債権者代位権による援用について

(一)  本件は、控訴人が攻撃防禦の方法を予め用意できる地位にある原告となつて審理が開始せられたものであるから、債権者代位権による時効援用の主張は原審で提出すべかりしものであつて、当審におけるその主張は故意又は重大な過失により時機に後れて提出されたものというべく、しかも、控訴人主張の代位権の存否については新な証拠調を要し、訴訟の完結を遅延せしめるものであるから、右主張は却下されるべきである。

(二)  仮に右時効援用の主張が許されるとしても、この点に関する控訴人の主張は次の理由により失当である。すなわち

(イ) 控訴人は本件土地の所有権を本件根抵当権の負担付で取得したものであつて、その権利は時効の援用権が認められなくても充分に保全せられる筋合であるから、控訴人は時効援用の被保全権利を欠くものというべきである。

(ロ) 被控訴人の訴外会社に対する債権は、昭和二十八年十月二十二日訴外会社に対し本件根抵当権の設定を受け、極度額五百万円、期間四カ月、利息日歩二十銭の約定で貸し付けることを契約し、この契約に基き同月二十九日百万円、同月三十日二百万円、同年十一月十一日二百万円合計五百万円を貸し付けたことによつて生じた貸金債権であつて商事債権ではないから、時効はなお未完成である。

(ハ) 仮に右貸金債権が商事債権であるとしても、その時効は次のとおり中断せられていまだ完成していない。被控訴人は昭和二十九年八月二十三日訴外会社に対し、右貸金について先に同会社との間になされた、訴外会社が貸金債務を期日に弁済しないときは、訴外会社はその弁済に代えて本件土地の所有権を被控訴人に移転すべき旨の特約に基き所有権取得完結の意思表示をした上、同年十二月二日東京地方裁判所同年(ワ)第一一、二六八号事件をもつて訴外会社に対し被控訴人のために右代物弁済による本件土地の所有権移転登記手続をすべきことを請求した。この事件については、被控訴人は第一審では勝訴(昭和三十一年八月二十日)したが、不幸にも第二審で敗訴(昭和三十三年一月二十四日)し、昭和三十三年四月十四日上告却下の決定により被控訴人敗訴の判決が確定した。そこで、被控訴人は昭和三十六年七月十四日訴外会社を債務者として東京地方裁判所に対し前記貸金の弁済を得る目的で本件根抵当権の実行として競売の申立をし、同年(ケ)第六七六号として同月十八日競売開始決定がなされた。ところでこの経過に徴すると、前記時効は昭和二十九年十二月二日被控訴人の訴の提起により中断せられ、被控訴人敗訴の判決が確定した昭和三十三年四月十四日から新にその進行を始めるに至つたが、さらに昭和三十六年七月十四日被控訴人の競売申立により中断したから、現在なお時効は未完成である。なお、貸金債権についてなされた代物弁済契約の履行請求は貸金債権行使の一態様であるから、訴によるその履行請求が時効中断の効力を有すべきは事理の当然である。

(ニ) 訴外会社の前記貸金債務については同会社が別訴でこれを承認したのであつて、時効はこの承認によつても中断せられ、いまだ完成していないのである。

と述べ、乙第二十一ないし第二十四号証を提出し、甲第五、六号証を利益に援用し

たほか、原判決の事実摘示(但し、原判決二枚目裏第七行に「同三、の五の(3) の内」とあるのは「同三、の(五)の(3) の内」と訂正する)と同じであるから、これを引用する。

理由

本件土地がもと訴外会社の所有であつて、控訴人がその所有権を訴外会社から承継取得したものであること、訴外会社が従前株式会社東京ホテルといつており、昭和二十八年十一月二十日両国企業株式会社とその商号を変更したものであること及び本件土地について本件根抵当権設定登記がしてあることは当事者間に争がない。

控訴人は先ず、本件根抵当権設定登記はその原因を欠く無効の登記であると主張するから、次にその当否について判断する。

控訴人の右主張の根拠は必ずしも明白とはいえないが、弁論の全趣旨を斟酌すると、それは、右登記にその登記原因として表示されている契約の日付の昭和二十八年十月当時(本件土地がこの当時なお訴外会社の所有であつたことは当事者双方の明らかに争わないところである)、訴外会社については田島一郎、須藤孝子、近藤信子の三名の代表取締役が共同してその代表をする旨の定めがなされていたのであるが、本件根抵当権設定契約は田島が単独で締結したものであつて、訴外会社に対してその効力を生ずるに由ないものであるから、右登記は結局その原因を欠くことになるというに帰着するもののようである。そして、訴外会社につき本件根抵当権設定契約の日付である昭和二十八年十月二十四日当時、控訴人主張のような共同代表の定めがなされていたことは当事者間に争がなく、また、右契約締結の意思表示が田島によつてなされたものであつて、須藤及び近藤の両名が直接にはこれに関与しなかつたことは、原審における証人田島一郎の証言(第一、二回)、被控訴人尋問の結果と弁論の全趣旨に徴して明白であつて、この認定を動かすべき証拠がない(甲第八号証の公正証書正本には、前記三名は昭和二十八年十一月十三日訴外会社の共同代表取締役として公証人に対し同会社は同年十月二十四日本件根抵当権設定契約を締結した旨を陳述したとの記載があるが、この記載が真実に符号しないものであることは後に認定するとおりである。なお、成立に争のない甲第十六号証、乙第七、八号証及び原審証人西村巖の証言中にも同趣旨に帰着するような記載及び供述部分があるが、これらの記載及び供述部分は他の記載及び供述部分と対照し近藤に関する限り何らの信憑力もないものと考えられる。)から、共同代表の制度をもつて積極的代表行為は共同代表取締役の共同でなければ絶体にこれをすることを許さないとするにあるものと解するにおいては、本件根抵当権設定契約は進んで他の判断を待つまでもなく訴外会社に対しその効力を生ずるに由なく、これが登記は結局その原因を欠く無効のものとするほかはないが、当裁判所は共同代表の制度はしかく形式的に解すべきではないとともに、共同代表の定めがある場合においても共同代表取締役のうちの一部の者が特定の行為につき他の共同代表取締役から代表権行使の権限の委任を受けてその名義で代表行為をすることは適法と解するのが相当と考える(特定の行為について或る共同代表取締役が他の共同代表取締役にその代表権限の行使を委任することを許しても共同代表制度の目的である共同代表取締役間の相互牽制による代表権行使の適正化を害することにはならないであろう)ので、さらに進んで、本件根抵当権設定契約締結の経緯について検討する必要がある。

成立に争のない甲第九号証(本証については原本の存在及び成立に争がない)、第十四ないし第十六号証、乙第二号証、第三号証の一ないし四、第四、五号証、第七号証の二、第八号証、第九、十号証の各二、第十一号証、原審における鑑定人遠藤恒儀の鑑定の結果によつて作成名義人本人の署名のあることが認められるから真正に成立したものと推定すべき乙第十五号証の一、何れも作成名義人本人の署名及び印影のあることについて争がないから真正に成立したものと推定すべき同第十六号証の一、第十七号証、原審における証人西村巖、小野山樹子、須藤孝子、田島一郎(第一、二回)の各証言及び被控訴人本人尋問の結果の各一部と弁論の全趣旨を総合すると、訴外会社については先に指摘したように昭和二十八年十月当時田島一郎、須藤孝子、近藤信子の三名の代表取締役が共同してその代表をする旨の定めがなされていたが、須藤、近藤の両名は何れも田島の内妻若しくはこれに準ずるような立場にあつたのであつて、共同代表取締役とはいつてもそれは形式上だけのものであり、実質上は田島の単なる事務の補助者に過ぎなかつた。さて、訴外会社ではこれよりも先同年八、九月頃から本件土地の上に映画館を建築し、別会社(この別会社の商号としては両国興業株式会社という名称が予定せられていた)を設立してその経営に当らせることを決定し、訴外種岡巖にその建築工事を請け負わせていたが、資金がないためにその工事は難航していた。ところが、同年十月になり種岡の斡旋で被控訴人から資金の借入ができるめどがつき、田島から須藤、近藤の両名にそのことを伝えると、両名は前記のような立場上その借入を承諾し、これが折衝を田島に一任したので、田島は同月二十四日単独で本件根抵当権設定契約を締結するとともに、須藤、近藤の両名からこれが登記用の委任状(乙第十七号証、第十五号証の一)を徴し、これを自己の登記用委任状(乙第十六号証の一)と一括して司法書士の小坂三郎に交付しその登記手続を委任した。しかして、田島はその手続が完了した翌日の同月二十九日これが登記済証を被控訴人方に持参して金借を申し入れ、被控訴人は同年十一月十一日までの間に三回に亘り合計五百万円を貸し付けた。ことが認められ、前掲の証拠のうちこの認定に副わない部分はにわかに信用し難く、他にこれを動かすべき証拠はない。

さて、以上認定の事実は、本件根抵当権設定契約が訴外会社の共同代表取締役の一員である田島一郎において他の共同代表取締役である須藤孝子、近藤信子の両名から前認定の借入をするについて同人らの代表権行使の権限を委任せられ、その委任に基き単独でこれを締結したものであることを示すものにほかならないのであるが、この推論の正当性を裏書するものとしては、さらに、前示乙第七号証の一、第八号証、第十号証、甲第十四ないし第十六号証(但し、甲第十四、五号証についてはその記載の一部)と証人西村巖、小野山樹子、須藤孝子、田島一郎の各証言(但し、須藤、田島の証言についてはその一部)及び被控訴人本人尋問の結果を総合して認められる、田島は被控訴人の前認定の金融に対し大いに感謝し、五百万円の借入ができると直にそのことを須藤、近藤の両名に報告するとともに、三名合意の上被控訴人に対し、昭和二十八年十一月十三日を期し東京法務局所属公証人佐伯顕二に委嘱し本件根抵当権設定契約について公正証書を作成することを提案しその承諾をえたが、当日になつて近藤は支障を生じたためその代理人として小野山樹子を田島と須藤の両名と一緒に佐伯公証人役場に出頭せしめ、被控訴人もまた秘書の西村巖を自己の代理人として同役場に出頭せしめ、小野山及び西村は何れも本人になりすまし、以上四名において佐伯公証人に対し甲第八号証の公正証書正本に記載のとおり本件根抵当権設定契約が締結せられた旨を陳述し公正証書の作成をえた事実(従つて、この公正証書の記載には一部真実に符号しない部分があるものというべきである)を挙げることも決していわれのないことではあるまい。そうすると、本件根抵当権設定契約は前説示の理由により訴外会社の行為としてその効力を生じたものとするほかはないから、本件根抵当権設定登記がその登記原因を欠き無効である旨の控訴人の主張は何ら理由のないものといわなければならない。

控訴人はさらに、前認定の貸借については本件根抵当権設定契約と同時に停止条件付代物弁済契約が締結せられたのであるが、被控訴人は昭和二十九年八月二十四日到達の書面をもつて代物弁済を選択したから、本件根抵当権はこれによつて放棄せられたか或は消滅したものと認められるべきであり、従つて、同根抵当権の設定登記は抹消を免れないと主張し、前認定の貸借について本件根抵当権設定契約と同時に停止条件付代物弁済契約が締結せられ、被控訴人が控訴人主張のように代物弁済を選択する旨の意思表示をしたことは当事者間に争がない。しかしながら、所論のような結論が、代物弁済の選択が有効になされた場合に限つて妥当するものであることは殆んど事理の当然というべきところ、前記代物弁済が被控訴人主張のような経過によつて裁判上無効と確定せられたことは当事者間に争がないから、控訴人の右主張は到底これを採用することができない。控訴人は代物弁済を選択する旨の意思表示をしておきながら、これが裁判上無効となつたからといつて根抵当権を主張するのは禁反言の原則に反し許されないと主張するけれども、その主張は担保契約の本質を没却するものであつて理由がない。

控訴人は最後に、被控訴人の訴外会社に対する前認定の貸金債権(控訴人は、この債権については被控訴人において乙第十二ないし第十四号証の各一の約束手形の裏書譲渡を受けているから、同債権は手形の償還請求権に過ぎないと主張し、この債権について被控訴人が右各手形の裏書譲渡を受けていることは被控訴人の認めるところであり、また、本件根抵当権設定登記にも手形割引根抵当権設定契約なる表現が用いられているけれども、この債権が、被控訴人において右各手形の償還請求権を有するか否かの点は別として貸金債権であることは先に認定したところである)は時効によつて消滅したから、この債権を被担保債権とする本件根抵当権設定登記は抹消を免れないと主張するので次にその当否について判断する。

先ず、右債権が商事債権か民事債権かの点であるが、その債務者(借主)が先に認定したように株式会社たる訴外会社である以上、右債権は訴外会社の営業のためにする付属的商行為によつて生じた商事債権であつて、五年の時効によつて消滅すべきものと認めるほかはない。

ところで、控訴人は時効は被控訴人主張の代物弁済の意思表示が訴外会社に到達した日の翌日である昭和二十九年八月二十五日から進行を開始したと主張するのに対し、被控訴人は時効は別訴の提起並に競売の申立によつて中断されたと主張するので考えるに、被控訴人が昭和二十九年十二月二日訴外会社を被告として東京地方裁判所に対し、訴外会社が本件貸金を期日に弁済しなかつたので代物弁済により本件土地の所有権を取得したとの理由によりその所有権移転登記手続をすべきことを求める訴を提起し、第一審においては被控訴人が勝訴したけれども、第二審においては被控訴人敗訴の判決がなされ、右判決は昭和三十三年四月十四日上告却下の決定により確定したこと、及び被控訴人が昭和三十六年七月十四日訴外会社を債務者として東京地方裁判所に対し本件貸金の弁済を得る目的で本件土地につき本件根抵当権の実行として競売の申立をした(当時本件土地の所有者は未だ訴外会社であつて、右競売申立は訴外会社も債務者兼物件所有者としてなされたことは成立に争のない乙第二十二号証及び弁論の全趣旨に明らかである)ことは当事者間に争がない。そうすると、時効は前記別訴の提起により中断し被控訴人敗訴の判決が確定したときから再び進行したが、右競売申立により再度中断し未だ完成していないことが明らかである。

控訴人は被控訴人提起の別訴は貸金請求の訴でないから時効中断の効力がないと主張するけれども、貸金契約に付随してなされた代物弁済に関する契約に基く不動産の所有権移転登記手続請求の訴は基本の貸金債権の満足を目的とする権利行使の方法であるから、時効中断の事由から除外すべき何らの理由のないことは多言を要しない。

してみれば、控訴人が抵当不動産の第三取得者として、或いは訴外会社に対する債権者として代位行使により時効を援用し得るか、及び、右代位行使による時効の援用が時機に後れた攻撃防禦の方法にあたらないかどうかの点について判断するまでもなく、控訴人の本件抵当権の被担保債権に関する時効完成の主張は採用できない。

以上判断したところに従えば、本件の根抵当権設定契約並びにその設定登記は有効であり、かつ被控訴人の本件根抵当権は未だ消滅せず、従つて控訴人の本訴請求中本件根抵当権設定登記の抹消手続を求める部分は理由のないことが明らかであるから、右部分の請求を棄却した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三百八十四条、第九十五条、第八十九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 牛山要 田中盈 今村三郎)

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